このNewsletterは「菅付雅信の編集スパルタ塾 10周年パーティー」の参加フォームに記入いただいた方にお送りしています。
書店には、たくさんの「編集」に関する本が並んでいる。これからの時代には、「編集」の力が必要だ、と。
でも、「編集」ってなんだろう?本や雑誌をつくること?140文字のテキストや短尺の動画で、自分自身を表現すること?好きでしかたないものについて、わかりやすく伝えようとすること?仲間を集めて、あたらしい何かをはじめること?
わたしたちは、そのどれもが「編集」なのだと思う。
それは、才能に溢れた少数の人にしか扱えない特殊な技術ではなく、あらゆる人の役に立つ「思考のOS(オペレーティング・システム)」のようなもの。人類の営みが進化するごとに「編集」はアップデートされて、だからこそ、使う人それぞれの人生が反映されていく。
わたしたちは、「あたらしい編集」について考えていこうと思う。だれもが「編集」を使って、自分だけの視点を表現できる世界をつくるために。
We are Editors Republic.
From Community
毎回の【特集テーマ】と連動しながら寄稿していく連載コーナー。編集スパルタ塾卒業生コミュニティ「Editors Republic」内で活動する、Cinema Club / Book Club / Foodies のメンバーによるエッセイをお届けします。
第1回テーマ:【あたらしい編集】
_Foodies
食は参加性の高いカルチャー
いつからか食のジャンルでは「Foodie」という言葉が使われ始め、「食通」「美食家」といった特権的な響きから、より広範囲のカルチャーとの結びつきが強くなったように思う。SNS文脈でもあり、時に音楽やファッションと並ぶように、大衆性をまとったポップカルチャーのひとつとして捉えられることもある。
いまの日本を見渡せば、ミシュランからB級グルメ、伝統や地域性、さらに個人の偏愛まで、このカルチャーは参加性がとても高い。横道にそれるが、9か国を対象としたあるリサーチによると「もっとも快いと感じる」ことが、大半の国は「SEXをする」や「愛する人と共に時間を過ごす」のに対し、日本だけが「美味しいものを食べる」だったそうだ。
「Foodie」という言葉においては、時に若干揶揄のニュアンスが含まれることもあるような気がするが、少なくとも日本において食に興味関心をもつことは、誰にでも可能で、どんな偏愛も含めてみんなが楽しんでいて、総じてとてもポジティブな世界がひろがっている。
「あたらしい」の捉え方
私はそんな世界に”クラフトビール好き”として参加し新しい情報をできるだけ早く得ることで、このシーンを楽しんできた。ただどうしても時代のスピードに常に追い付くことはできない。この数年はあきらめ半分、むしろはなからそんなことは無理で、新しい情報は誰かや、AIや集合知に任せた方がいいとすら思うようになってきた。
シーンが盛り上がる過程のクラフトビールの文脈において、「新しいこと」は文字通りニュースになりやすいし、自分にとっても依然として魅力的だ。でもシーンを見ていて、時に少し違った「あたらしい」に出会うことがある。
複数のブルワリーが立つ地域に横のつながりが生まれたことで「あたらしいローカルコミュニティ」ができあがる/伝統的な製法のビールを「あたらしい解釈」で再構築して醸造する/ナチュラルワイン、日本酒などにも視野を広げて”酸味のお酒”というくくりで「あたらしい一つのジャンル」として酒屋が生まれる・・・といった具合に、従来からあるもの・状態を、視点、捉え方によって「あたらしい」ものとして楽しむ動きだ。
それはスピードの「新しさ」ではなく、解釈の「あたらしさ」であり、そこに必要なのはコストを払うことではなく、人を知り、歴史を知り、世界を知ることだと思う。自分なりの視点をもって繋ぎ合わせていくことで「新しくはないが、あたらしい」世界がひろがっていく。スピードや何かと勝負するのではなく、より深くこの世界を楽しむことができるのだ。
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編集スパルタ塾のサバイバーたちがつくる様々なコミュニティ。”知ること”からはじまり、”自分なりの解釈”であたらしい世界を楽しむということも、編集が持っている一つの力かもしれない。私はクラフトビールを入り口にしたが、あなたはどんな視点でこのカルチャーを見ているだろうか。是非DiscordのFoodiesコミュニティに参加して、サバイバーたちとあなたならではの世界の見方を共有してほしい。美味しいビールとともに、待ってます。
- Written by 石川知彦(4期/Foodies Lead)
Editor’s View
Editors Republicのメンバーが気になる記事をキュレーションしてご紹介します。
遺失物レポートから考える、「偶然性」の編集 - Written by 小林明日香(2期)
2、3年前に見つけてから毎年地味に楽しみにしている企画がある。Uberが発表する「The 2023 Lost & Found Index」。
シンプルに車内に忘れられた物のレポートを公開しているだけなのだが、4月27日に発表されたレポートはすでに第7回目。よくある忘れ物10選から始まり、忘れっぽい都市10選、ユニークな落とし物50選、2023年の落とし物トレンド、最も忘れやすい日/時間、特定の日にピークを迎える忘れ物など、発表する項目も洒落がきいていて楽しい。 「あたらしい編集」というテーマについて考えた時、「偶然性の編集」というキーワードが浮かんだ。 検索エンジンの普及に始まり、マッチングアプリや最近話題のChatGPTなども含めて「検索して最適解を見つける」ためのサービスやメディアが無数に溢れる時代だからこそ、これからは「偶然性」(不確実性といってもいいかもしれない)の価値が高まっていくのではないか、と。そしてそんな「偶然性」について調べてみたところ、見つけたサービスが面白かった。
「偶然」をフックに、社会にワクワクを 廃棄予定の花で宅配事業
「偶然」を取り戻す。”本に伸ばした手が重なるような出会い”をデザインするオンライン書店
予期せぬ事態ばかりだと苛立つけれど、予想通りの日常もつまらない。「偶然性」を編集したり、可視化したりできたら、もっと新しくてわくわくするものが生まれる気がする。これからも注目したい。
どこをAIに任せたいのか?創作の醍醐味と人間の手のメリットは - Written by 金井茉利絵(1期)
「作家がもしAIライターを使用するとすれば、まず自分の書くという作業の中で、どこまでが自分でやらなくてもいいものだと判断するのか?そうなると、創作の醍醐味は一体どこか?」という記事。一人の女性作家は、「物語のプロットを生み出すのは人間のするべき仕事であるということは譲れない」と話す。なぜならそのプロットこそ彼女が存在する部分であると。そこには彼女の人生での経験や感情、様々なものが含まれるのだろう。確かに、現時点ではまだAIの文章やアイディアには手触りのようなものは感じられない。どうしようもなく心が惹かれるものとは、感情やちょっとしたエラーなどが複雑に混ざっているものなんだと感じる。「あたらしい編集」として、様々な企画やシステムに人間の編集の手を入れることが出来たとき、そのメリットとは愛着のある代替できない何かが生まれることかもしれない。
組織の公平性を編集する - Written by Inou Masahiro(10期)
組織の公平性を編集する米DIgidayは、アメリカの大手メディアは依然として白人の占める割合が多く、新規採用においても白人の数が多いとレポートした。2020年5月のジョージ・フロイド氏殺害事件をきっかけに、各種メディアは人種の多様性に考慮した目標を設定。全体の傾向としては、一桁単位ではあるが白人の割合が減少している。日本でも「D&I」という言葉に代表されるように、少しづつ様々なバックグラウンドを持つ人が共に働く環境が整えられつつある。メルカリの取り組むCEO直轄の社内委員会「D&I Council」などが、代表例だろう。しかし、Divercityを実現するために、まずInclusionを先にやるべきではないか、と思う。例えば、政治の場において、男性の数が女性より圧倒的に多いと、女性は自分たちの意見を言いにくくなるとも言われている。長年培ってきた自らの視点を変えるのは難しい。だからこそ、未知との出会いによって、自らの視点を編集していくことが、これからの時代求められていくだろう。
DE&Iの公約を掲げる米メディア各社、新規採用は依然としてほぼ白人
「編集」がファッションを変容させる - Written by 濱田小太郎(1期)
「あたらしい編集」とは、あたらしい視点やルールを見出すことでもある。近年、様々な批判を集めているファッションビジネスに必要な「編集」とは、どういうものであるべきだろう? 熱狂的なファンダムを持つブランド・Lemaire(ルメール) を率いる二人のクリエイティブディレクター、Christophe Lemaire (クリストフ・ルメール) と Sarah-Linh Tran (サラ=リン・トラン)のインタビューからは、たくさんのインスピレーションをもらった。
Lemaireはクラシックなショーをやめ、短編映画のような映像で服が生き生きと輝く瞬間をプレゼンテーションする。ポケットやボタンの付け方を工夫することを、着る人に「サービスを提供する」と捉える。何より「恋や料理、読書のための余裕が生まれる服を作る」という二人の哲学にはハッとする人も多いだろう。自分はコロナ禍を経て、他人にどう見えるか?よりも自分が快適でいられる服であることが、とても重要になった。きっと、着る人は彼らの服に込められた哲学を強く感じ取るからこそ、Lemaireの服の虜になるのだろう。
言葉ではなく、身体で感じる「編集」。それは、ファッションにしかできないことかもしれない。
恋や料理、読書のための余裕が生まれる服を作る。ルメールのふたりが考えるファッションの役割
このNewsletterについて
Editors Republicは、下北沢B&Bという本屋で通算11期開催されている「菅付雅信の編集スパルタ塾」のメンバーで構成されたコミュニティ。
これからの時代を生きる人々に向けて「編集」を拡張・再定義し、あたらしい可能性を伝えるために、多種多様なメンバーがそれぞれ自律的な活動を行っています。
このNewsletterでは、Editors Republicのメンバーが、自らリサーチ/検証/実践しながら「あたらしい編集」を考えるための情報を発信していきます。わたしたちが日々生きる中でアップデートされるキーワードやトピックを取り上げ、「編集」の視点で仮説を立て、あたらしい視点を獲得することを目指していきます。
この世界のいたるところに「編集」は潜んでいる。
「編集」という視点が身近にあれば、きっと毎日がもっと面白くなる。
菅付雅信の編集スパルタ塾